アルプスアイベックスはワインメーカーに何を教えてくれるのか？

アルプス山脈に生息するアイベックス・ヤマヤギの行動が変化していることは、気候変動に関する「不吉な兆候」を示している、と科学者たちは言う。

アルプスアイベックスは何千年もの間、ヨーロッパアルプスの荒く険しい地形を歩き回り、標高3,300mもの高地に生息してきた。

彼らの自然生息地はフランス、スイス、リヒテンシュタイン、イタリア、ドイツ、オーストリアの山岳地帯にまたがり、冬には険しい斜面から移動し、夏にはアルプスの草原で草を食む。

しかし、生物学研究誌『Proceedings of Royal Society B』に掲載された新たな研究によって、アルプスのワインメーカーにも問題を引き起こしかねない、憂慮すべき傾向が明らかになった。

イタリアの2つの教育機関（サッサリ大学とフェラーラ大学）が実施した調査によると、アイベックスは夜行性になってきているという。日中に餌を食べる代わりに、夜間に猛獣として行動する時間が増えているのだ。

「アイベックスはより夜行性になることで、気温の上昇に対処している。

アイベックスの主な捕食者であるオオカミは夜間に狩りをするため、アイベックスが餌食になりやすくなり、個体数の減少につながる可能性があるからだ。また、アイベックスの視力はまだ夜間視力に進化していないため、この種にとって餌を見つけることが難しくなる可能性も高い。

「この種にとって、夜行性であることは問題であり、大きな問題です」と、この研究の著者の一人で、フェラーラ大学助教授のステファノ・グリニョリオは言う。

これはワインにとって何を意味するのだろうか？

山の温暖化によって危険にさらされる可能性があるのは、アイベックスだけではない。

環境レポーターのベンジー・ジョーンズに よれば、アルプスの気温は今世紀末までに数度上昇すると予想されており、ワインメーカーへの影響は避けられないという。

世界中のワインメーカーが、気候変動の影響から逃れるために標高の高い場所にブドウを植えていることはよく知られている。しかし、アイベックスの研究は、極端な高度でさえ気温が高くなっていることを示唆している。

また、 黒ブドウのテロルデゴ・ロタリアーノから ワインを造っているイタリアのワイン生産者メッツァコローナなどが支持しているアルプスの土着ブドウにとっても、問題となる可能性がある。

メッツァコローナによれば、「野生のブラックベリー、レッドカラント、スミレの濃厚な味わいと、濃密なタンニン、スパイスのバックボーン」を与えるこの品種は、ガルダ湖からアルト・アディジェのアルプスの丘に伸びる渓谷の回廊の内側に位置する、北イタリアのテロルデゴ・ロタリアーノDOCで発見された。

アルプス山脈の気温上昇は、このような地元のブドウ品種がますます危険にさらされることを意味する。

同様に、温暖な山岳地帯は、グリューナー・ヴェルトリーナーに次いでオーストリアで最も人気のあるブドウであるソーヴィニヨン・ブランにも影響を及ぼす可能性がある。2021年、オーストリアのソーヴィニヨン・ブランの作付面積は約1,691haだった。

オーストリア・ワイン・マーケティング協会のクリス・ヨーク専務理事は、オーストリアのソーヴィニヨン・ブランを「アロマティックなマールボロと張りとミネラルのあるサンセールの中間のスタイルを征服している」と評している。

シュタイヤーマルクの生産者が、温暖な気温が定期的に降雨によって中断される急斜面でのソーヴィニヨン・ブランの最良の管理方法を理解し始めたのは、ごく最近のことだ。しかし、気候がさらに暑くなり続けるのであれば、調整を行い、この地域のブドウ栽培を管理するための新たな青写真を描く必要がある。

さらに、スイスのファインワインにとって重要な時期を迎えており、Liv-exのファインワインレポート「パワー100」（2023年12月発表）にスイスが再びランクインした。スイスは少なくとも6年ぶりにリスト入りを果たし、スイスが一流の表現を生み出す大きな可能性を秘めていることを浮き彫りにした。

フレッシュ村に位置するスイスの生産者、ガンテンバインのエントリーは、平均取引価格1,992ポンドを記録し、商人に感銘を与えた。スイス南東部、グラウビュンデン地方のアルプスの急斜面に植えられたガンテンバインのブドウ畑は、この地方特有の微気候の恩恵を受けており、同社はその保護に熱心だ。グラウビュンデンという小さな小地域（およびAOC）は、標高4,000mを超えるアルプスの峰々に囲まれている。

ガンテンバインは、次世代のためにテロワールを守るため、すでに有機栽培とビオディナミに取り組んでいるが、この地域の気温が大幅に上昇した場合、ワインメーカーは厳しい決断を迫られるかもしれない。